episode3 生きているって感じがする。

 少し前、サービス付き高齢者住宅に入居してきた80代の女性。

姪っ子さんが、こっちにいるからと、今まで住んでいた土地から引っ越して来た。

  

 80代になって、住み慣れた所を離れ、新しい土地に住むって、勇気がいるだろうと思う。

 

 持病を持っている彼女は、殆どの時間を自分の部屋の一室で一人で過ごす。歩けないわけではないけれど・・。

部屋の外へ出るのは、同じ階の浴室へ行くぐらい。皆が集まる食堂へも行かず、自室で、一人ご飯を食べる。

 時々話をするのは、訪ねてくる姪っ子さん以外は、訪問診療の医師と看護師、

入浴介助や生活援助で訪問するヘルパー、ケアマネージャーぐらいではないかと思う。

 

 どんなことを考え、何を思い、毎日生活をしているのだろう・・と想像する。

 

 先日、生活援助で訪問する機会があった。まずは、換気をするため窓を開ける。

するとベッドの布団の中からこんな声が・・・。

「気持ちいい風だね。大袈裟かもしれないけど、生きているって感じがする」と。

部屋に入ってきた風。まだ冷たい、ただの風。

それでも彼女にとっては、生きているって感じがするのだ。

 

 その言葉に、ちょっとびっくりした。

 

 「ホントに、大袈裟だけどね・・」と言いながら、照れたように微笑む。

それでも、生きているって感じることが出来るのは、幸せなことかもしれない。

 

 バタバタと、忙しく過ごす毎日、当たり前の様に繰り返される毎日の中に

心から「生きている」って感じる瞬間は、あるのだろうか。

 

 私の「生きている」って感じる瞬間は、いつなんだろう・・・。