episode2 優しいお母さんの姿。

 どうしているかな・・・?

 

 15年以上も前の話。認知対応型の小規模サービスサービスに勤めていたときの利用者さん。

確か、その当時70歳ぐらいだったと思う。元気な時は、夫と一緒に夫婦でパン屋さんを営んでいたそうで、働き者の大きな手の持ち主だった。

 

 若年性認知症と診断され、デイサービスに通っていた。食事も入浴もトイレもすべて介助が必要。

それでも、若い頃は陸上の選手だったとかで、足、腰は丈夫。一緒に歩くと前傾姿勢でガンガン歩く。

日頃あまり歩かない私は、ついていくのに必死。

 

 いつものように、一緒に散歩に出かける。見上げるような大きな木のある神社の社務所の前にベンチがひとつ。

私の方から「ちょっと休憩しましょう」と声をかけ、ベンチに座わる。

 

 突然、一方的に話したいことをしゃべる時もあるけれど、その日はとても静かだった。じっと木の向こうにある空を眺めていた。

無言の状態がちょっと気まずかった私は、その時悩んでいた子どものことを独り言のようにぽつり、ぽつりと話す。

隣で、じっと座っていた彼女。聞いているのかいないのか。突然、私の頭に手を当てて、優しく撫でてくれた。そして「大丈夫」と一言。

 

 その瞬間、彼女が子育てをしていた頃は、こんなおかあさんだったんだろうなと思えるような・・・優しいお母さんの姿が目に浮かんだ。

ほんの一瞬の出来事、忘れられないお散歩の思い出。